現代版ノアの方舟に乗ろう!?

 旧約聖書の創世記にある「ノアの方舟」の物語をご存知の方は多いことと思います。

 預言者の一人であるノアは、ある時「人間はすっかり悪に染まっている。反省して正しい道に戻れるように120年の猶予を与えよう」という神からの啓示を受けます。
 しかし、一向に悪から抜け出さない人間たちに業を煮やした神は、正しく生きていたノアに再び「私は人間を滅ぼすことにした。ただ、お前だけは助けてやろう」という啓示を与えます。
 ノアは神からの啓示の通りに船を作り、家族と生き物たちをその船に乗せ、その後にやってきた嵐と洪水の中を200日近く彷徨った挙句にアララテ山の頂上にたどり着いて生き残ったという物語です。

 とても印象的な物語ですし、何度も映画化されたことも手伝って、キリスト教徒以外の方でもご存知の方は多いでしょう。
 ここで確認しておきたい事ですが、ノアの方舟のハイライトでもあり、我々が教訓とすべきは「神のご意志に沿って正しく生きる」ことです。

 しかしながら物語のインパクトが強い事を逆手にとって、商魂たくましい人物はノアの方舟の物語部分だけをピックアップして利用してきました。
 いわゆる選民思想とか選民意識と呼ばれるものです。

 選民思想の代表的なものとしては、ユダヤ教が挙げられますが、まあ、聖書に記載してあるノアの子孫という括りで見れば、彼らがそう主張するのもわからないわけではありません。
 問題なのは「世界の〇〇万人だけが救われる」とか、「神の使者であらせられる〇〇様を信仰したものだけが救われる」「宇宙人〇〇が地球人を救いにきているのだから彼の声を聞いたものだけが救われる」というように、救われる人間を限定して吹聴する人物たちや組織です。

 彼らは、人間なら誰しもが持っているエゴの一つである「優越感」を巧みについてきています。
 さらに「地球滅亡」とか「神の救済の扉が閉まる」というような恐怖心や不安を抱かせるようなものと、選民意識を抱き合わせることで正常な判断ができないような意識状態に人を追い込んでいきます。
 そうすることで信者やファンを増やし、結果自分たちが潤うというビジネスモデルを作り上げているのです。

 社会的に問題になったカルト宗教をはじめ、現代でも新興宗教やスピ系の一部にこういったビジネスモデルをトレースして活動しているものがあります。
 さらに言えば、現代はオンラインサロンという隠れ蓑があったりするので、こういったものがなかなか表に出てきにくい状況がありますが、選民思想をモチーフにしたビジネスモデルは現在でも実在していることを認識しておく必要があります。

 このようなビジネスモデルはニューエイジ系のカルト宗教がブループリントとなっています。
 選民思想をモチーフにしたビジネスに対しては、カルト宗教の様々な事件が表沙汰になったおかげもあって、1900年代の方が人々の間に警戒心がありました。
 それに対して現代は、スピリチュアルという言葉が一般的になってきたせいもあってか、カルトやこういったビジネスモデルに対する警戒心が薄くなっているというか、ガードが甘くなっている人が多くなっている印象を受けます。中でも生半可にスピ系に関わったが為に、新たにそういうビジネスモデルに出会っても何の疑いを持つこともせず、まんまと相手の術中にはまっている人たちも少なくありません。

 社会が豊かになり、同時に複雑になった分、人は自分自身に価値を見出そうと必死です。
 これを有名な心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求の五段階説で「承認欲求」と呼んでいます。
 この承認欲求に対して「あなたは選ばれた」というインセンティブを与え、優越感というエゴを巧みについてきているのが、彼らのビジネスモデルです。

【マズローの欲求の五段階】

 物事に対しては私たちは落ち着いた状態で理性的に考えなければなりません。
 恐怖心に突き動かされたり、エゴを突かれて感情が高ぶっている状態ではそれが上手くできません。
 いい話があったとしてもすぐには飛びつかず、ひとまず棚上げしておいてから、落ち着いてもう一度考える時間を作る必要があります。

 繰り返しますが、ノアの方舟の物語の教訓は「神のご意志に沿って正しく生きる」ことです。方舟の事実があったかどうかは別の問題です。

 神は最大に慈悲深く、公正で、全ての人間に慈愛を持ち、全ての人間の救済を望んでおられる存在です。
 特定の団体に所属したり、秘密の儀式やワークを行なう事で、その人間を特別扱いする事はありません。
 方舟に乗ることができるのは、地上生活の様々な葛藤の中で「日常を正しく生きた人」だけなのです。

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